古書肆「白河堂」 2007年10月号




『ロールプレイング・ゲームの批評用語』




2007年09月27日
高橋志臣(godandgolem.inc*at*gmail.com)
    スパム対策のために@を *at* と表記しています。メール送信時には、ここを半角 @ に直して宛先として下さい。





■「構造表」(Construction of Concepts)


A.アートと方法論


B.ゲームデザインの基礎理論


C.ロールプレイング・ゲームの基礎理論


D.マスターリングの表現技法


E.セッション・共同ゲームデザイン・イマジナリィ・ボード


F.その他



■「定義集」(Definition of Concepts)

A.アートと方法論

〈アート〉 Art
 人間が一定の材料や技芸、形式などを通して、“何らかのもの”を創造・表現しようとするあらゆる活動のこと。
 また、そのような活動によって生み出された作品。
 現代日本において、このような意味で〈アート〉と言う場合、それはしばしば「芸術」よりも広い対象を含む概念とみなされる。現代の美学や芸術学においては、「美」や「芸術」の定義をめぐる膨大な議論があり、統一的な「芸術」の意味を定めることがきわめて困難となっている。その一方で、〈アート〉という広い概念は、これまで「芸術」とは見なされてこなかった幅広い領域から、美的なものをすくい上げるための有効な見方を提供してくれている。
 「芸術」ではないが〈アート〉と見なされるものの典型としては、たとえばテレビコマーシャルやロック音楽、一部のスポーツなどが挙げられる。なぜこれらが「芸術」から外れるのかといえば、これらが必ずしも近代芸術学的な意味での「美」を追求しているとは限らないからである。
 本論考においては、〈ゲームデザイン〉という行為および作品としての〈ゲーム〉が、先に定めた〈アート〉に属するものであることを前提に話をすすめる。〈ゲームデザイン〉は、一定の技芸や形式を駆使して、〈ゲーム的状況〉をなるべく“面白く”再現しようとする人間の活動にほかならず、したがってこの〈アート〉の定義に問題なくあてはまる。しかし、〈ゲームデザイン〉が果たして「芸術」であるかどうかについては、本定義集では一切関知しないことにしている(本文が「芸術」を用語として定義していないのは、その意志の表れである)。
  →〈ゲームデザイン〉〈ゲーム〉
(西村1995, 1998)



〈基礎理論〉 Basic Theory
 特定分野の〈アート〉に存在するもっとも基本的な要素を定義し、さらにその要素同士の構造的関係について体系的に整理・記述する作業を通じて明らかとなった、その分野に関わる諸概念についての体系的知識。
 これはさらに〈定義論〉と〈構造論〉の2つに分類される。
  →〈アート〉〈定義論〉〈構造論〉
(馬場2004b)



〈定義論〉 Definitions
 特定の〈アート〉に存在するある対象が「そもそも何であるか」を、明確な概念として定義し、意味づけることを目的とした議論のこと。
 また、その議論を通じて定義された諸概念に関する体系的知識を指すこともある。
 たとえば、「RPGとは何か」「〜〜とは何か」という問いかけに始まり、「RPGとは〜〜である」とか「〜〜とは〜〜を満たすものに限る」といった議論は、この〈定義論〉にカテゴライズされる。
 〈基礎理論〉構築における重要な作業の1つ。
  →〈基礎理論〉
(馬場2004b)



〈構造論〉 Constructions
 特定の〈アート〉に存在するさまざまな要素を調べ、その要素同士の関係を調べ上げることを通じて、「対象がどのような構造によって成り立っているか」を明らかにすることを目的とした議論のこと。
 また、その議論を通じて明らかとなった構造に関する体系的知識を指すこともある。
 たとえば、「集合{A,B,C,D,E}の諸要素は、互いにどのような関係にあるか」という問いかけに始まり、「Aという概念にはB,C,Dが下位概念として含まれるが、AとEはまったく異なるものである」といった回答を導き出すような議論は、この〈構造論〉にカテゴライズされる。
 〈基礎理論〉構築における重要な作業の1つ。
  →〈基礎理論〉
(馬場2004b)



〈表現技法〉 Techniques
 特定の〈アート〉において、「どのようにすれば“より効果的な表現”を生み出すことができるか」という実際的問題をうまく解決するための知識や方法論のこと。
 この〈表現技法〉を言葉で説明する際は、〈基礎理論〉において定義された用語を使用することが推奨される。
 なおRPGにおいては、〈システムデザイン〉に関する表現技法、〈マスターリング〉に関する表現技法、〈プレイング〉に関する表現技法の、3種類の表現技法がそれぞれ考えられる。
  →〈アート〉〈基礎理論〉〈システムデザイン〉〈マスターリング〉〈プレイング〉
(馬場2004b)



〈訓練方法〉 Training Methods
 「〈表現技法〉に習熟するにあたり、どのような練習や教育を受ければ確実に上達が望めるか」という、〈アート〉における教育の問題を解決するための実践的な知識や方法論のこと。
 この〈訓練方法〉を言葉で説明する際は、〈基礎理論〉において定義された用語を使用することが推奨される。
 なおRPGにおいては、〈システムデザイン〉に関する訓練方法、〈マスターリング〉に関する訓練方法、〈プレイング〉に関する訓練方法の、3種類の訓練方法がそれぞれ考えられる。
  →〈アート〉〈基礎理論〉〈表現技法〉〈システムデザイン〉〈マスターリング〉〈プレイング〉
(馬場2004b)





B.ゲームデザインの基礎理論

〈ゲーム的状況〉 Game Situations
 複数の行為主体が、特定の条件下で各自の行動を選択し、その選択結果がその状況や他の行為主体に対して影響を与えるような状況のこと。
 ただし、実際にその状況が〈ゲーム〉の条件をつねに満たしているとは限らないし、そこで扱われる状況が必ずしも歴史的事実や物理的事実に即しているとも限らない。
 〈ゲーム的状況〉は、しばしば「ゲーム理論」とよばれる学問(オペレーションズ・リサーチやミクロ経済学など)の対象としてとりあげられるが、しかしそれらは通常、文化の一形態としての〈ゲーム〉を論じるために作られたものではまったくないことに注意する必要がある。〈ゲーム的状況〉と「〈ゲーム〉が成立する状況」とは、似て非なるものである。
  →〈ゲーム〉〈社会的状況〉
(馬場2005b)



〈ゲームデザイン〉 Game Design
 そのままでは〈ゲーム〉とはみなすことができない〈ゲーム的状況〉を、〈ゲーム〉として遊べるように編集するための、あらゆる作業のこと。
 本文章においては、その活動によって生まれる〈ゲーム〉とともに、〈アート〉の一種であると見なされる(一般的な意味での「芸術」であるとは限らないことに注意)。
  →〈アート〉〈ゲーム的状況〉〈ゲーム〉
(馬場2005b)



〈遊戯〉 Jeu (not Games)
 単独あるいは複数の人間が、単に楽しみを求めて行うもの。
 明確な目的はなく、勝利条件も、何かを選び取ったことに対する評価の尺度を与える必要もない。
 したがってその結果(勝敗)が参加者の生活や人生に対して、何か重大な影響を与えることもありえない。
 この“無目的性”こそが〈遊戯〉の本質的な特徴であると言える。
 〈遊戯〉は、明確な〈目標〉を消極的に否定してしまうことで楽しみを得る。そのためここにはいわゆる〈意志決定〉が成立せず、よって〈ゲーム〉も成立しない。
 文明論や美学、遊びの人類学にとっては見逃せない行為であるが、「よりよいゲームデザイン」を目指すための、狭義の〈ゲーム〉に関する議論においては、真っ先に議論の対象外に置かれるものである。これを中心として〈ゲームデザイン〉を論じることはできない。
  →〈ゲームデザイン〉〈ゲーム〉〈目標〉〈意志決定〉
(馬場1996-7)



〈ゲーム〉 Games
 〈参加者〉〈目標〉〈障害〉〈管理資源〉〈ゲームトークン〉〈情報〉〈意志決定〉の7要素が、特定の時間・場所において規定され、その上で行われる一連の〈アート〉的活動のこと。
 このうち、ゲームの面白さを提供する中心となる要素は〈意志決定〉である。また、この「ゲームの7要素」以外に付随する要素は、ゲームを“より面白くする”かもしれないが、ゲームを〈ゲーム〉たらしめる本質的な要素ではないとされる。
 また、ゲームの学術的研究においては、少なくとも現在までに数十以上の定義が提案されているが(Juul 2003)、そのうち〈ロールプレイング・ゲーム〉のあり方をうまく説明するものはまだ少なく、今回の定義においてはやむなく除外している。この〈ゲーム〉の定義については、今後も引き続き検討が必要であると思われる。
 なお、本文で出てくる〈ゲーム〉は、特に断り書きがない限り、このコスティキャンが定義した意味での〈ゲーム〉を意味するものとする。
  →〈アート〉〈参加者〉〈目標〉〈障害〉〈管理資源〉〈ゲームトークン〉〈意志決定〉〈制限/情報〉
D(Juul[2003]2005)



〈参加者〉 Participants
 〈ゲーム〉に参加する個人のこと。
 通常、ほとんどそのまま〈プレーヤー〉のことを指すが、それ以外の場合(たとえば〈ゲームマスター〉など)もあり得る。
 コスティキャンが定める〈ゲーム〉の7要素の1つ。
  →〈ゲーム〉〈意志決定〉〈プレーヤー〉
(Costikyan1994=1995,2006)



〈目標〉 Goals
 〈ゲーム〉における〈参加者〉がどんな勝利条件(何をもって「達成した」と見なすかという条件)を目指して行動すべきかを明確に規定したもの。
 あるいは、その規定が参加者全員に伝達され、共有されている状態。
 〈目標〉はゲームによっては一つだけでなく、複数同時に与えられることもある。RPGにおいては、ゲームの性質上、目標が常に複数存在する(〈目標の多層構造〉を参照せよ)。
 コスティキャンが定める〈ゲーム〉の7要素の1つ。
  →〈ゲーム〉〈意志決定〉〈目標の多層構造〉
(Costikyan1994=1995,2006)



〈障害〉 Oppositions
 〈ゲーム〉において、〈目標〉を達成することがより困難となるようなさまざまな「仕掛け」が明確に設定されており、それを克服する努力を〈参加者〉に強いる状況が成立していること。
 あるいは、その「仕掛け」それ自体を指す。
 コスティキャンが定める〈ゲーム〉の7要素の1つ。
  →〈ゲーム〉〈意志決定〉
(Costikyan1994=1995,2006)



〈管理資源〉 Resources
 〈ゲーム〉における〈参加者〉が〈目標〉を達成するために管理・活用すべき、ルール上の諸要素のこと。
 〈ゲーム〉の〈参加者〉は必ず〈管理資源〉を象徴する〈ゲームトークン〉を通じてゲームに関与することになる(これはつまり、〈ゲームトークン〉なしに〈管理資源〉を直接動かすことはできないということである)。
 また、このような形で〈管理資源〉を管理することを「資源管理」(Managing Resources)という。
 たとえば、ボードゲームにおける「勝ち点」やウォーシミュレーション・ゲームにおける「兵力」、RPGにおける「能力値」や「ヒーローポイント」などがこの〈管理資源〉にあたる。総じて概念的かつ抽象的で、直接手では触れられないようなものが〈管理資源〉なのである。
 コスティキャンが定める〈ゲーム〉の7要素の1つ。
  →〈ゲーム〉〈ゲームトークン〉〈意志決定〉
(Costikyan1994=1995,2006)



〈ゲームトークン〉 Game Tokens
 〈ゲーム〉における〈参加者〉が〈管理資源〉にアクセスし、操作するために必ず用いなければならない、特定の手段のこと。
 ボードゲームにおける「コマ」、カードゲームにおける「カード」、RPGにおける「キャラクター」、スポーツゲームにおける「プレーヤー自身」などがこの〈ゲームトークン〉に該当する。
 〈管理資源〉とは対照的に、人間が身体や言語(文字・会話)といった比較的物理的な手段を通じて操作できるようになっていることが、〈ゲームトークン〉の特徴である。
 コスティキャンが定める〈ゲーム〉の7要素の1つ。
  →〈ゲーム〉〈管理資源〉〈意志決定〉〈キャラクター〉
(Costikyan1994=1995,2006)



〈制限/情報〉 Regulations and/or Information
 〈ゲーム〉における〈参加者〉が〈意志決定〉を下すにあたって事前に判断材料として与えられる「情報」と、〈参加者〉が〈意志決定〉する際に無視してはならない条件として規定されたさまざまな「制限」とを合わせたもの。
 「情報」も「制限」も、ある〈選択肢〉の価値を高めたり低めたりするという点で、等しく〈意志決定〉を支援する機能を持つため、これらをまとめて「意志決定支援メカニズム」とも言う。
 〈制限/情報〉は参加者の〈意志決定〉を支援するのに必要十分な量でなければならず、複雑すぎても単純すぎてもいけない。
 また、〈制限/情報〉は通常、数値処理に適した定量的なモデルで与えられることが多いが、一方で数理モデル以外──たとえば、文芸的な趣きをもつ文字情報など──の形式で与えられることもあり得る。
 RPGの場合、「ルール」「データ」「システム」「世界設定」「キャラクターの立場」といったものがこの〈制限/情報〉にあてはまる。
 コスティキャンが定める〈ゲーム〉の7要素の1つであるが、ここでは馬場(1996-7)の「制限」に関する主張も一部取り入れた上で再定義している。
  →〈ゲーム〉〈意志決定〉〈背景世界〉
(Costikyan1994=1995,2006)(馬場1996-7)



〈意志決定〉 Decision Making
 〈ゲーム〉における〈参加者〉が、〈目標〉〈障害〉〈管理資源〉〈ゲームトークン〉〈制限/情報〉といったゲームの諸要素を与えられた上で、〈葛藤〉〈アカウンタビリティ〉〈結果に対する責任〉の3つの条件を考慮しつつ、有限の〈選択肢〉の中から可能な限り最良と思われる〈選択/決断〉を下そうとする行為のこと。
 〈ゲーム〉をプレイするにあたり、もっとも重要かつ本質的な概念であるとされる。
 〈意志決定〉という行為が具体的にどのような条件によって成立するかについては、上に列挙した12個の術語すべてについて網羅的に知ることで明らかとなるだろう。
 コスティキャンが定める〈ゲーム〉の7要素の1つ。
  →〈参加者〉〈目標〉〈障害〉〈管理資源〉〈ゲームトークン〉〈制限/情報〉〈葛藤〉〈アカウンタビリティ〉〈結果に対する責任〉〈選択肢〉〈選択/決断〉
(Costikyan1994=1995,2006)(氷川1999)(馬場2000a)



〈葛藤〉 Conflicts
 〈ゲーム〉の〈参加者〉に対してもっともらしい複数の〈選択肢〉が提示されていながら、その選択肢のどれもが「最適解」とはみなせないような状況が成立していること。
 ここで言う「最適解がない」とは、「どの選択肢にも一定の問題があり、どれだけ合理的に考えようとしてもかんたんに一つの選択を選び取れない」ということを意味する。プレイヤーがある課題について「最適解」を知っている時、そこに〈葛藤〉はないと言ってよい。
 なお、ある程度の時間と労力をかけて探せば必ず「最適解」が導き出せるような種類のゲームを「パズル」と呼んで、これを〈ゲーム〉と区別することもある。
 〈意志決定〉を成立させる最も重要な3条件のうちの1つ。
  →〈ゲーム〉〈意志決定〉
(Costikyan1994=1995,2006)(氷川1999)(馬場2000a)



〈アカウンタビリティ〉 Accountability
 〈ゲーム〉の〈参加者〉に対して必要十分な〈制限/情報〉が与えられており、かつその上で特定の〈選択肢〉を選んだ理由を、その〈制限/情報〉の内容に基づいて説明できる状況が成立していること。
 単に「根拠」と言うこともできる。
〈意志決定〉を成立させる3条件のうちの1つ。
  →〈ゲーム〉〈意志決定〉
(氷川1999)(馬場2000a)



〈結果に対する責任〉 Responsibilities for the Outcome
 〈ゲーム〉において、〈選択肢〉を選んだ場合の結果や損得を〈参加者〉が明快に理解しており、かつその選択した結果の責任が、他の誰でもない、〈選択/決断〉を下した〈参加者〉個人に帰せられるような状況が成立していること。
 〈意志決定〉を成立させる3条件のうちの1つ。
  →〈ゲーム〉〈意志決定〉
(氷川1999)(馬場2000a)



〈選択肢〉 Decision Branch
 〈ゲーム〉の諸要素によって狭められた、〈参加者〉が選び得るゲーム中の幾つかの選択のこと。
 しかし、ただ〈選択肢〉があるだけでは〈ゲーム〉は成立せず、それに加えて〈意志決定〉の3条件を満たしていることが重要である。
  →〈ゲーム〉〈意志決定〉
(氷川1999)(馬場2000a)



〈選択/決断〉 Choice and/or Decision
 〈ゲーム〉の〈参加者〉が、与えられた有限の〈選択肢〉に対してどれか一つを選択し、決断すること。
 しかし、ただ〈選択/決断〉するだけでは〈ゲーム〉は成立せず、それに加えて〈意志決定〉の3条件を満たしていることが重要である。
  →〈ゲーム〉〈意志決定〉
(氷川1999)(馬場2000a)





C.ロールプレイング・ゲームの基礎理論

〈ロールプレイング・ゲーム〉 Role-playing Games, RPGs
 以下の条件を満たすものが〈ロールプレイング・ゲーム〉(RPG)であると定義される。

  1. 〈ゲームマスター〉と〈シナリオ〉による〈ゲームデザインの補完〉が必要なこと。
  2. 〈役割分担〉が〈プレーヤー〉に要求されること。
  3. 〈目標の多層構造〉が成立していること。
  4. 〈制限/情報〉が〈背景世界〉という形式で与えられること。
  5. 上記4つの条件をクリアした上で〈ゲーム〉の定義を満たしていること。

  →〈ゲームデザインの補完〉〈役割分担〉〈目標の多層構造〉〈背景世界〉〈ゲーム〉
(馬場1999)



〈ゲームデザインの補完〉 Complementary Game Design
 「RPGシステムはそのままでは〈ゲーム〉として半完成品であり、誰かが手を加えなければ〈ゲーム〉として遊べない」という事実のこと。
 これに〈ゲームマスター〉と〈シナリオ〉の2つが補完されることによって、RPGは初めて魅力的な〈ゲーム〉として機能する。
 RPG独自の面白さを提供する仕掛けの1つ。
  →〈ゲーム〉〈ゲームマスター〉〈シナリオ〉
(馬場1996-7,2002a)(芝村2004a,b)(高橋2005b)



〈システムデザイナー〉と〈システムデザイン〉 System Designers and System Design
 〈システムデザイナー〉とは、RPGシステムをデザインするだけの技量を持ち、実際にRPGシステムを制作するゲームデザイナーのことである。
 〈ゲーム〉として挑戦するに値する〈ゲームコンセプト〉およびその具体的なメカニズムを、ルールの作成を通じて教授・伝達することが〈システムデザイナー〉の主な職務となる。
 またこの一連の作業を〈システムデザイン〉と呼び、そしてこの〈システムデザイン〉の遂行を通じて出来上がったものを「ゲームメカニズム」あるいは「ゲームシステム」と呼ぶ。この「ゲームメカニズム」は「ルールブック」という出版物・表現媒体を介してゲームマスターとプレーヤーに提供されることになる。
 ほとんどの場合、ゲームマスターはこの「ゲームメカニズム」の支援なしでは、面白いRPGセッションを提供することができない(素人の模型ファンが、プラスチック合板から模型を制作するようなものである)。したがって、RPGという営み全体におけるシステムデザイナーの職分は、とても強い影響力を持つ。
 なお、システムデザイナーは原則として、〈セッション〉の現場には直接関わらないことを前提にシステムを設計する。なぜなら、そのシステムを使用する者がゲームデザイナー本人とは限らないからである。
  →〈ゲーム〉〈ゲームコンセプト〉
(芝村2004a,b)(高橋2005b)



〈RPG世代論〉 Generations of RPGs
 RPGのシステムデザインに関する歴史的変遷を、安田均(1986)が3つの「勢力」に分類したのち、さらに多摩豊(1995)が「世代論」として簡潔に要約したもの。
 システムデザインは〈シナリオ作成〉に直接関わることから、RPGの遊び方も世代ごとに特徴的なものとなる。
 多摩はRPGを〈第一世代RPG〉〈第二世代RPG〉〈第三世代RPG〉に分類し、それぞれ定義している。
  →〈第一世代RPG〉〈第二世代RPG〉〈第三世代RPG〉〈シナリオ〉
(安田1986: 168-222)(多摩1995:18-24)



〈第一世代RPG〉 First-generation RPGs
 戦闘シミュレーションのデザイン技法から派生した戦闘ルールの運用を主体とし、その周辺の状況描写を補助的な要素として扱うRPGのこと。
 多くがダンジョン的なシナリオ記法を前提としており、〈背景世界〉の提供にうまく対応しにくいとされる。
  旧版D&DやT&Tなど。
  →〈RPG世代論〉〈シナリオ〉
(多摩1995: 18)



〈第二世代RPG〉 Second-generation RPGs
 戦闘ルールよりも、むしろキャラクターの生活世界に関する事象を中心にルールで記述し、“その世界の住人”として生きる楽しみを主題とした、システム設計段階からストーリー志向・キャンペーン志向のRPGのこと。
 〈背景世界〉が豊富である点が好評であり、統一した世界観においてあらゆる状況を再現するにあたっては理想的なRPGだとされたが、あまりに〈背景世界〉が豊富すぎて、ほとんどのゲームマスターの処理能力限界を超えてしまうという、唯一にして最大の欠陥が存在する。
 『トラベラー』や『ルーンクエスト』など。
  →〈RPG世代論〉〈背景世界〉〈シナリオ〉
(多摩1995: 18-22)



〈第三世代RPG〉 Third-generation RPGs
 〈第二世代RPG〉よりもさらにストーリーを中心に置き、キャラクターのプレイ中における役割や、ストーリー全体の筋道をある程度決めた後、ゲーム中に期待される役割にふさわしいプレイに挑戦するRPGのこと。ストーリーを重視するという性格上、他の世代とくらべて〈シナリオ〉の占める重要度が非常に大きい。
 『ジェームズ・ボンドRPG』『スターウォーズRPG』『トーグ』『トーキョーN◎VA』などが代表的だが、公式シナリオを提供することを前提として開発されたRPGシステムも広義の〈第三世代RPG〉に含める見方もある。
  →〈RPG世代論〉〈背景世界〉〈シナリオ〉
(多摩1995: 22-4)



〈ゲームマスター〉と〈マスターリング〉 Game Masters and Mastering
 〈ゲームマスター〉とは、システムデザイナーの代理人となって、提供された〈ゲームコンセプト〉の具体化、具現化につとめる職務を果たす特別な〈参加者〉のことである。
 〈ゲームマスター〉は、そのままでは未完成なRPGシステムの〈ゲーム性〉を補完する。
 また、このゲームマスターによる一連の行為を〈マスターリング〉あるいは〈マスタリング〉と呼ぶ。
 なお、本定義集では〈マスターリング〉の日本語訳にあたる〈運用〉(Mastering)という言葉についても詳しく論じ、〈ゲームマスター〉の職能についてさらに詳細な定義を与えている。
  →〈ゲームデザインの補完〉〈ゲームコンセプト〉〈運用〉
(馬場2002b(芝村2004a,b)(高橋2005b)



〈シナリオ作成〉と〈シナリオ〉 Scenario-making and Scenarios
 〈ゲームマスター〉と呼ばれる特別な参加者が、RPGシステムの〈ゲームコンセプト〉を理解し、参加者の特性に合わせて〈ゲーム〉の諸要素をゲーム開始前にあらかじめ決定しておく一連の作業を〈シナリオ作成〉という。
 またその成果物を、誰でも参照可能なように文字に書き起こしたものを〈シナリオ〉と呼ぶ(演劇の「シナリオ」や「スクリプト」とは意味合いがまったく異なることに注意せよ)。
 この〈シナリオ〉の具体的な形式はさまざまであるが、おおまかには〈RPG世代論〉によって区別することができるだろう。
 〈シナリオ作成〉は、そのままでは未完成なRPGシステムの〈ゲーム性〉を補完する。
  →〈ゲームデザインの補完〉〈RPG世代論〉
(馬場1996-7)



〈冒険〉 Adventures
 いかにも冒険小説やエンターテイメント小説の題材になりそうな、一連の魅力的な行動のこと。
 しばしば特定の困難な〈課題の解決〉を通じて物語られ、またRPGではしばしば〈ゲーム〉として再現しやすい状況とみなされる。
 なお、この〈冒険〉は「フィクション」だけでなく、歴史的事実や現代社会などの「ノンフィクション」においても見出すことができる。
  →〈課題の解決〉
(馬場2003)



〈社会的状況〉 Social Situations
 〈冒険〉を〈冒険〉たらしめる特別な社会背景のこと。
 〈冒険〉は課題解決のための「行為」であるが、〈社会的状況〉はその行為を成立させる「環境」を提供する。
 〈社会的状況〉なしには〈冒険〉は成立しない。
(たとえば、「120円でジュースを買う」という日本国内では常識的に平凡な「行為」も、「富士山頂」や「ニューヨーク」や「宇宙空間」といった特殊な「環境」で実行しようとしたならば、それは一種の〈冒険〉となりうる──それが〈ゲーム〉として面白いかどうかは、別として。)
 また、この〈社会的状況〉は、しばしば〈ゲーム的状況〉や、そのゲーム的具現としての〈背景世界〉と重なる。
  →〈冒険〉〈ゲーム的状況〉〈背景世界〉
(馬場2003)



〈進行イメージ〉 Storyline
 〈シナリオ作成〉に先行して漠然と想像される、物語的な〈ゲーム的状況〉のイメージのこと。
 これは〈シナリオ作成〉が終了し、〈ゲーム〉が完成した時点で基本的に捨て去られるべきものであるとされる。なぜなら「〈進行イメージ〉こそ最適解」という発想をゲームマスターやプレーヤーが一人でも持っていると、ゲームの大事な面白さとなる〈葛藤〉を提供しにくくなるからである。
  →〈ゲーム的状況〉〈ゲーム〉〈シナリオ作成〉〈葛藤〉
(馬場1996-7)



〈目標の多層構造〉 Multi-layer Structure of Goals
「同時に提示された複数の目標を、いかに矛盾なく同時に達成することができるか」という、しばしば実現困難な〈意志決定〉の課題をプレーヤーに提示すること。
 また、そのような提示が為されていることを参加者全員が理解し、共有していることを指す時もある。
 多層構造の中身については、〈課題の解決〉〈役割分担〉〈ロールプレイング〉〈ゲームコンセプト〉の4つにさらに分類される。
 RPG独自の面白さを提供する仕掛けの1つ。
 なお、ゲームデザインそのものの研究ではないが、「現実の人間/プレーヤー/キャラクター」のそれぞれのRPGゲーマーの認知フレームに関する社会学的な研究としては(Fine 1983)がある。
  →〈意志決定〉〈課題の解決〉〈役割分担〉〈ロールプレイング〉〈ゲームコンセプト〉
(Fine1983)(馬場1996-7,2002b)



〈キャラクター〉 Characters
 特定の〈背景世界〉において想定され得る、一個の人格(自らの行為を主体的に決定する者)のこと。
 現実の我々と同じ「人間」であることもあれば、そうでないこともある。
 〈キャラクター〉はRPGのプレーヤーにとっての唯一つの〈ゲームトークン〉であり、能力値、技能、特殊な才能など、豊富な〈管理資源〉を持つことが多い。
 「プレーヤーキャラクター」「PC」とも。
  →〈ゲームトークン〉
(馬場1996-7)



〈プレーヤー〉と〈プレイング〉 Players and Playing
 〈プレーヤー〉とは、与えられた〈ゲーム〉をプレイする〈参加者〉のことである。
 RPGにおいては、通常、一人の〈キャラクター〉を〈ゲームトークン〉として与えられることになる。
 そして、この〈キャラクター〉を動かすことを通じて〈目標の多層構造〉をうまく解決しようとする〈参加者〉こそがRPGにおける〈プレーヤー〉であり、またその一連の試みこそがRPGにおける〈プレイング〉であるとされる。
  →〈参加者〉〈キャラクター〉〈目標の多層構造〉
(馬場1996-7)



〈課題の解決〉 Solving the Problems
 〈プレーヤー〉が、〈シナリオ〉において提示された当面の課題を達成するために〈意志決定〉すること。
 その課題達成の局面は、しばしば〈冒険〉のようなかたちをとる。
 〈目標の多層構造〉の4要素のうちの1つ。
  →〈目標の多層構造〉〈冒険〉
(馬場1996-7)



〈役割分担〉 Role-sharing
 〈プレーヤー〉が、与えられた課題を解決するにあたり、各自のキャラクターの能力(つまり〈管理資源〉)の得意/不得意があることを適切に把握しつつ、それらの能力をお互いに持ち寄り、協力し合える状況を作ることを目指して〈意志決定〉すること。
 RPGでは元々、このような意味での協力を Role-playing と呼んでいたが、より厳密に、ゲーム課題解決上必要な作業分担のことを意味するようになった。
 RPG独自の面白さを提供する仕掛けの1つであると同時に、〈目標の多層構造〉の4要素のうちの1つでもある。
  →〈ロールプレイング・ゲーム〉〈目標の多層構造〉〈管理資源〉
(馬場1996-7)



〈クラスシステム〉 Class Systems
 ルールで大まかに役割を定義して、個別の〈管理資源〉をキャラクター間に分担させるような方法を採用するRPGシステムのこと。
 ここでいう「クラス」とは、「ゲームの目的を達成するために必要な、キャラクターごとのおおまかな役割、職務」を意味する。
 システムとしては簡潔な構造になりやすい。
  →〈管理資源〉〈役割分担〉
(馬場1996-7)



〈スキルシステム〉 Skill Systems
 幅広い行動の選択肢に対応するために、細やかな技能分類をルールで定義するシステムのこと。
 ここでいう「スキル」とは、「ゲームの目的を達成するために必要な、キャラクターの保持する個々の技能」を意味する。
 システムとしては複雑な構造になりやすい。
  →〈管理資源〉〈役割分担〉
(馬場1996-7)



〈スキル補完型クラスシステム〉 Class-skill systems
 〈クラスシステム〉と〈スキルシステム〉を相互補完するシステムのこと。
 大雑把な部分はクラスで決めてしまい、残りを限定的にスキルシステムで補完していく方法であることが多い。
  →〈管理資源〉〈役割分担〉
(馬場1996-7)



〈ロールプレイング〉 Role-playing
 〈プレーヤー〉が、与えられた〈背景世界〉や「キャラクター属性」(年齢、性別、職業、特徴、性格、生い立ち、各種の能力、その他の、キャラクター設定を通して与えられた〈制限/情報〉の集合)と〈キャラクター〉の行為とができるだけ整合することを目指して〈意志決定〉を行うこと。
 キャラクターの言動は、背景世界やキャラクター属性と矛盾しないだけでなく、それらを活かしたものにすることがより望ましいとされる。
 〈目標の多層構造〉の4要素のうちの1つ。
  →〈目標の多層構造〉〈背景世界〉〈制限/情報〉〈キャラクターのロールプレイ〉
(馬場2002b)



〈キャラクタープレイ〉 Character-play (not Role-playing)
 キャラクターの行動を宣言する際、「伝達の工夫」や「場の盛り上がり」「感情移入・一体感」といった利点を満たすために、いわゆる演技的な口調によって〈キャラクター〉の描写を行うこと。
 一体感を目指しすぎて〈ロールプレイング・ゲーム〉の5つの条件を否定するような問題を起こさない限りは、伝達テクニックの一つとして非常に有効な手段であるが、〈ロールプレイング・ゲーム〉の定義とは直接関係がない部分である。
ところで多くの人は、〈キャラクタープレイ〉を〈ロールプレイング〉と取り違えていることが多いが、これは異なる二つの概念である。前者はともすれば「キャラクター」という枠組でのみキャラクターの行動を決定することになりがちだが、後者の〈ロールプレイング〉を行うためには、「キャラクター」の枠組だけでなく、「課題/プレーヤー/キャラクター/ゲームコンセプト」の4つすべてに配慮した〈目標の多層構造〉に挑む姿勢が必要となる。
 したがってRPGでは、〈キャラクタープレイ〉を行うだけでは、〈ロールプレイング〉を実践したことにはならないし、〈ロールプレイング・ゲーム〉に参加していることにもならないのである。
 以上の留保を理解した上でならば、〈ロールプレイング〉遂行の際に加えて〈キャラクタープレイ〉に挑戦することは、ゲームの楽しみを増させる上で、とてもよいアプローチの一つといえる。
  →〈ロールプレイング・ゲーム〉〈目標の多層構造〉〈キャラクターのロールプレイ〉
(馬場1996-7)(馬場2000b)



〈キャラクターのロールプレイ〉 Role-playing A Character
 〈キャラクター〉の「描写」を楽しむのではなく、〈意志決定〉の際に考慮されるべき〈制限/情報〉を「キャラクター属性」(〈ロールプレイング〉参照)に集中させることで、通常のゲームよりも遥かに難易度の高い〈目標の多層構造〉を生み出す〈プレイング〉のこと。俵ねずみ(2003)が提唱した概念。
  表現としての「演技」そのものよりも、その「演技」に至るまでのキャラクターの内面や社会的状況について「考慮」することに、より力点が置かれているのが特徴である(この「考慮」については、「ありかた」「ふるまいかた」といった術語によって、より詳しく論じられている)。
 〈キャラクターのロールプレイ〉は、あくまで〈意志決定〉を中心としたキャラクター表現として考えられているため、〈目標の多層構造〉を維持することが前提となっている。したがって、ともすればその他の目標を「キャラクター描写」より下位に置きがちな〈キャラクタープレイ〉とは、完全に異なるプレイング技法であるといえる。
  →〈制限/情報〉〈意志決定〉〈キャラクター〉〈目標の多層構造〉〈キャラクタープレイ〉〈プレイング〉〈評価基準の変更〉
(俵ねずみ2003)



〈パワープレイ〉 Power-play (not Role-playing)
 〈目標の多層構造〉の重要性を理解せず、「戦闘ルール」(RPGにおいて、個人や集団による戦闘状況を処理するためにデザインされたルール)にしか興味を示さない〈プレイング〉のこと。
 あらゆる課題を「戦闘ルール」で解決しようとしたり、戦闘ルールで解決できないことはプレーヤーの口先三寸で解決しようとするような傾向があるとされる。多様な楽しみを持つ〈ロールプレイング・ゲーム〉の遊び方としてはきわめて素朴な、未熟な遊び方に分類されるものであり、問題点としては「飽きやすく、〈ゲーム〉の楽しみが長続きしない」「強さのインフレが置きやすく、歯止めをかけにくい」「戦闘ルール以外のRPGの楽しさを知らないままRPGを辞める可能性が高い」といった点が挙げられる。
  →〈目標の多層構造〉〈プレイング〉〈ロールプレイング・ゲーム〉
(馬場1998)



〈ゲームコンセプト〉 Game Concepts
 〈システムデザイナー〉がシステムを作成する際に意図して設計した、そのゲームの中心的な面白さのこと。
 これはシステムデザイナーの高いゲームデザイン能力によって設計されるものであると同時に、その趣旨をよく理解しようと努めた〈ゲームマスター〉と〈プレーヤー〉双方の努力を通じて、〈セッション〉現場にはじめて具現するものでもある。そして特に、前者の意味での〈ゲームコンセプト〉のことを「狙い」と呼び、後者の意味での〈ゲームコンセプト〉のことを「狙いの再現」と呼ぶ。もちろん、その再現は、システムデザイナーが当初想定していた典型的なものに限らず、セッション現場においてより多様な形をとってもかまわない(詳しくは〈運用〉を参照せよ)。
 また、〈プレーヤー〉がゲームをプレイする際は、キャラクターの行動と、そのゲームシステムが提示した「狙いの再現」ができるだけ整合することを目指して〈意志決定〉を行うべきであるとされる。
 〈目標の多層構造〉の4要素のうちの1つ。
  →〈システムデザイナー〉〈ゲームマスター〉〈プレーヤー〉〈セッション〉〈目標の多層構造〉〈運用〉
(馬場1996-7)



〈志向性〉 Intentions
 〈プレーヤー〉がRPGのプレイにどんな楽しみを求めるかという傾向を、大まかに規定したもの。
  あるいは、「そのような楽しみをプレーヤーが求めているだろう」ということをシステムデザイナーが想定してゲームをデザインすること。
 「指向性」ともいう。
 さまざまなものが考えられるが、おおまかに言って〈ヒーロー志向〉と〈疑似体験志向〉に二分される。
  →〈プレイング〉〈ヒーロー志向〉〈疑似体験志向〉
(馬場1996-7)



〈ヒーロー志向〉 Heroic Intentions
 RPGのプレイにおいて「物語のヒーローのようにキャラクターを活躍させたい」というプレーヤーの願望・志向のこと。
 あるいは、「プレーヤーは物語のヒーローのようにキャラクターを活躍させることに楽しみを見出すだろう」とシステムデザイナーが想定してRPGシステムをデザインすること。
 〈ヒーロー志向〉のプレイやデザインにおいては、〈プレーヤー〉と〈キャラクター〉の目的や願望が概ね一致している場合が多い。
 「ヒーロー願望」とも言う。
  →〈志向性〉
(馬場1996-7)



〈疑似体験志向〉 Virtual Experimental Intentions
 RPGのプレイにおいて「現実にはできないさまざまな体験をしたい」というプレーヤーの願望・志向のこと。
 あるいは、「プレーヤーは現実にはできないさまざまな体験をすることに楽しみを見出すだろう」とシステムデザイナーが想定してRPGシステムをデザインすること。
 〈疑似体験志向〉のプレイやデザインにおいては、〈プレーヤー〉と〈キャラクター〉の目的や願望がそれぞれ異なる場合が多い。
 「疑似体験願望」とも言う。
  →〈志向性〉
(馬場1996-7)



〈背景世界〉 Campaign Worlds, Worlds as A Framework
 古今東西のエンターテイメント作品や、現実に想定され得る「架空の状況」に〈ゲーム的状況〉を見出し、そのアイディアを〈ロールプレイング・ゲーム〉に利用することを想定して作られた、特別な〈制限/情報〉のこと。
 〈意志決定〉の際に考慮すべき状況の枠組みを〈プレーヤー〉に提示する働きがある。
 ところで、RPGのもっとも重要な特徴の一つに、「具体的な事象を具体的に扱おうとすること」がある(氷川2001)。この「どこまでも架空の状況を詳細に記述する」ことは、ほかのゲーム(ウォーゲームやテーブルゲーム)においてはナンセンスな気晴らしでしかないにもかかわらず、RPGにおいては当然のこととして行われている。
  このRPG独特の営みは、〈背景世界〉が(単なる文芸的な設定の集合としてではなく)〈ゲーム〉における〈制限/情報〉として機能することを期待されていることから生じている。
 そして〈背景世界〉は、単に〈ゲーム〉の基盤を提供するにとどまらず、セッション現場でより豊かな〈ゲーム〉を構築していくための基盤となる「共通認識」を築く働きもある。(この〈背景世界〉第二の働きについては、〈共同ゲームデザイン〉の観点を取り入れる必要がある)。
 RPG独自の面白さを提供する仕掛けの1つ。
 なお、既存のRPG製品において有名なものとしては、以下のようなものが挙げられる。


  →〈制限/情報〉〈ロールプレイング・ゲーム〉〈共同ゲームデザイン〉
(馬場1996-7)(氷川2001)(高橋2005a)





D.マスターリングの表現技法

〈運用〉 Mastering
 〈ゲームマスター〉が、任意のRPGシステムに書かれた情報をどのように活用するかを判断し、なにがしかの遊べる〈ゲーム〉を作成させるために適用する、首尾一貫した解釈・方法論のこと。
 〈運用〉は1つのゲームメカニズムに対して複数あることが普通であり、それはシステムデザイナーの著作によって提供されることもあれば、現場のゲームマスターやプレイグループが独自に編纂・保有していることもある。そして、その〈運用〉には(「うまい/へた」の基準こそある程度存在するものの)このどちらか一方の〈運用〉が「絶対的に正しい」とは言うことができない。
 また、望ましいとされる〈運用〉にも〈典型的/アクロバティック〉という2つの段階的区別があり、この2つはゲームマスターやプレイグループの技量に合わせて採用されるべきであると考えられる。
 基本的には、初心者は〈典型的な運用〉をまず練習し、それから次第に上達するにしたがって〈アクロバティックな運用〉へと段階的に進んでいくことが推奨される。
  →〈表現技法〉〈訓練方法〉〈ゲームデザインの補完〉〈マスターリング〉〈典型的な運用〉〈アクロバティックな運用〉〈理想主義的な運用〉〈システム選択能力〉〈シナリオ作成能力〉〈セッションハンドリング作成能力〉
(高橋2005b, 2007)



〈段階的な運用〉 Staged Mastering
 RPGシステムの〈運用〉にはさまざまな解釈がありえることを理解した上で、まずは基本的かつ安定した〈ゲーム〉を提供できるような〈運用〉から練習を始め、その後次第にプレイグループの特性や自分自身のチャレンジしたい物事に合わせて〈運用〉のバリエーションを広げていくこと。
 また、この〈段階的な運用〉は、そのように徐々に多様な〈運用〉を身に付けていくことこそがゲームマスターにとっての「上達」であるという考え方と繋がっている。マスターリング技術を学ぼうとする者は、この〈段階的な運用〉の考えに立つことで、特定の〈運用〉にだけこだわらず、プレイグループの傾向やさまざまな環境・状況に柔軟に応えるような〈運用〉ができるようになっていく。
 〈段階的な運用〉の具体的な段階にはさまざまな尺度を与えることができるだろうが、本定義集ではひとまず〈典型的な運用〉と〈アクロバティックな運用〉の二段階を提唱している。
  →〈運用〉〈典型的な運用〉〈アクロバティックな運用〉
(高橋2007b)



〈典型的な運用〉 Classic Mastering
  ゲームマスターが、システムデザインによって与えられたルールやシナリオから推論して、どんな遊び方が典型的なものとして推奨されているかを把握した上で、まずはその“無難な”解釈に基づいて“無難な”セッションを運営すること。
 システムデザインがどのようにゲーム性を提供しているのかを楽しみながら学ぶには最適な遊び方だが、そのシステムデザイン自身の性能を完全に発揮するには向いていない遊び方であると言える。
 〈アクロバティックな運用〉と対を成す運用方法。
 なお、この〈典型的な運用〉をシステム解釈によって見出そうとする作業として注目されるものに、Vampire.S(2000)の「ポリシー/メカニズム論」および「メカニズム解析」がある。
  →〈運用〉〈段階的な運用〉〈アクロバティックな運用〉
(Vampire.S 2000)(高橋2007a)



〈アクロバティックな運用〉 Acrobatic Mastering

システムデザインに示された要素をもとに、ゲームマスターやプレーヤーが自由にシステムデザインを解釈し、その解釈にもとづいてセッションを運営すること。
 「曲芸的な運用」ともいう。
「どうすれば面白いゲームが成立するか」をある程度経験的に理解している上級者同士ならば、この運用で斬新かつ優れたゲームを楽しむことができるが、一方で〈典型的な運用〉すらおぼつかない初心者ゲームマスターや初心者プレーヤー同士では、破綻する危険性の高い、むずかしい遊び方でもある。
 〈典型的な運用〉と対を成す運用方法である。
  →〈運用〉〈段階的な運用〉〈典型的な運用〉
(高橋2007a)



〈理想主義的な運用〉 Idealistic Mastering (nonexistent)
 文芸批評における「理想的な読者論」の誤謬と同じく、「特定のシステムには唯一にして絶対のルール解釈がある(あるべきだ)」と信じ、その通りにゲームを運営すること。
 しかし実際には「唯一にして絶対のルール解釈」というものはありえないため、実現不可能な遊び方である。
 この方法で面白いゲームを提供することは確かに不可能ではないかもしれないが、この運用にとり憑かれたゲームマスターは、システムデザインに対する〈運用〉解釈の多様性を認めず、プレイグループとの間にしばしば問題を引き起こす。本来ならばプレイグループに〈ゲーム〉を提供するべき立場であるはずのゲームマスターがこのような不祥事を起こすことは避けなければならず、したがって、基本的に考え方としては認めるわけにいかないものである。
 〈理想主義的な運用〉は、プレイグループや自分の実力に合わせた「段階的な運用」という発想を持たないため、ほかのどの〈運用〉とも関連をもたない。
  →〈運用〉
(高橋2007a)



〈マスターリングの表現技法〉 Mastering Techniques
 〈システム選択〉〈シナリオ作成〉〈セッションハンドリング〉〈ヒューマン・アフェア〉〈啓蒙活動〉の5つの技法。
 また、そのそれぞれの技法の熟練によって発揮される高度なマスターリング能力のことも意味する。
  →〈システム選択能力〉〈シナリオ作成能力〉〈セッションハンドリング能力〉〈ヒューマン・アフェア〉〈啓蒙活動〉
(馬場1996-7, 2005a)



〈システム選択能力〉 Ability of System Selection
 〈ゲーム〉をデザインする道具として魅力的なRPGシステムと、そのような機能を十分に満たしていないRPGシステムとを的確に見分け、選択する技量のこと。
 ありとあらゆるセッションの現場にもっとも相応しいRPGシステムを選ぶために必要な能力である。
 この〈システム選択〉は、実際にはシステム単独の出来・不出来で評価するのではなく、これから〈ゲーム〉を提供すべきプレーヤー達が取り組みたいと考えているような〈志向性〉〈役割分担〉〈背景世界〉が、システムデザインの段階でそれぞれ適切に準備されているかどうかを念頭に置いて評価する必要がある。
 マスターリング表現技法5要素のうちの1つ。
  →〈マスターリングの表現技法〉〈志向性〉〈役割分担〉〈背景世界〉
(馬場1996-7)



〈シナリオ作成能力〉 Ability of Scenario-making
 選択したRPGシステムと自分のゲームデザインに関する知識・技能を活かしつつ、RPGを〈ゲーム〉として補完するための各種情報(これを〈シナリオ〉と呼ぶ)を準備する技量のこと。
 当日のセッションにおいて安定したマスターリングを提供するために必要な能力である。
 「ある任意の〈ゲーム的状況〉にみられる基本的な〈進行イメージ〉をさまざまな要素に分解し、それらを〈目標〉〈制限〉〈障害〉といった〈ゲーム〉の要素として再解釈して構造化すること」。これが、RPGにおける「シナリオ作成」の中心的な作業である。
 マスターリング表現技法5要素のうちの1つ。
  →〈マスターリングの表現技法〉〈シナリオ作成〉〈ゲーム的状況〉〈進行イメージ〉〈ゲーム〉〈目標〉〈障害〉〈制限/情報〉
(馬場1996-7)



〈セッションハンドリング能力〉 Ability of Session Handling
 RPGシステムとシナリオを援用しつつ、さまざまなテクニックを駆使して〈意志決定〉の楽しみをプレーヤーに提供すると同時に、終始公正さを保って〈セッション〉を運営する技量のこと。
 またここでいう〈セッションハンドリング〉とは、セッション中の発話や裁定を通じて、〈目標〉〈障害〉〈制限〉〈管理資源〉など、〈シナリオ作成〉の段階であらかじめ決めていたさまざまな〈ゲーム〉の要素をシナリオとは異なる方向に微調整したり、精緻化したり、逆に省略したりすることで、プレーヤーに対してできるだけ魅力的なゲームを提供しようとする一連の作業のことを意味する。
 〈セッションハンドリング〉における個々の裁定では、〈ゲームマスターの裁定基準〉を念頭においてジャッジするべきとされる。
 マスターリング表現技法5要素のうちの1つ。
  →〈マスターリングの表現技法〉〈セッション〉〈ゲームマスターの裁定基準〉
(馬場1996-7)



〈ゲームマスターの裁定基準〉 Criteria, Judging Standards
 〈ゲームマスター〉がセッション運営において〈公平さ〉〈一貫性〉〈論理的整合性〉〈説明責任〉〈ゲーム性〉の5つを固く守り抜くこと。
 この5つを守ることで、「ゲームマスターは公正に裁定を行っている」という信頼をプレーヤーから得ることができる。
  →〈マスターリング〉〈公平さ〉〈一貫性〉〈論理的整合性〉〈説明責任〉〈ゲーム性〉
(馬場1996-7)



〈公平さ〉 Fairness
 特定プレーヤーをひいきしたり、逆に差別したりしないこと。
 すべてのプレーヤーは平等に扱われなければならない。
 「ゲームマスター5つの裁定基準」のうちの1つ。
  →〈ゲームマスターの裁定基準〉
(馬場1996-7)



〈一貫性〉 Consistency
 状況の処理に一貫性を持たせること。
 以前に似たような状況を処理した場合、それとまったく同じ状況処理を行うことが、ゲームマスターとしての正しい裁量であるとされる。
 「ゲームマスター5つの裁定基準」のうちの1つ。
  →〈ゲームマスターの裁定基準〉
(馬場1996-7)



〈論理的整合性〉 Reasoning
 システムおよびシナリオが与える〈制限/情報〉に整合するように判定を行うこと。
 プレーヤーの行動宣言が常識的に言って難しいものであったり、あるいはくだらない思いつきであった場合に、背景世界やルールなどによって保障されていた〈ゲーム性〉を壊さないよう注意を払わなければならない。しかしもちろん、その上でプレーヤーの〈意志決定〉は最大限尊重されるべきである。「ゲームマスター5つの裁定基準」のうちの1つ。
  →〈ゲームマスターの裁定基準〉
(馬場1996-7)



〈説明責任〉 Clarification
 やむなくルールを破る場合、ゲームマスターがプレーヤーに対して納得の行く理由をそのつど説明する義務があること。
 ゲームマスターは明確な理由なしにルールを破るべきではない。
 破るとしても、それはあくまで〈ゲーム性〉を守るために破られるべきである。
(RPGにおいては「ルール」より「ゲームマスターの裁定」が、そして「ゲームマスターの裁定」より〈ゲーム性〉が、尊ばれる。「1.ゲーム性」←「2.GMの裁定」→「3.ルール」の順番を守ることが、RPGにおける「法の精神」である。)
 「ゲームマスター5つの裁定基準」のうちの1つ。
  →〈ゲームマスターの裁定基準〉
(馬場1996-7)



〈ゲーム性〉 Gaminess
 RPGセッションにおける「ゲームの面白さ」をマスターリングによって保障し続けること。
 「ゲームマスター5つの裁定基準」のうちの1つ。

 ──しかし、これだけは、5つの裁定基準の中でも、とりわけわかりにくい裁定基準であるように思われる。

 実のところ、この〈ゲーム性〉とは、いまだ定まった定義のみつからない、曖昧な概念である。以下の記述は、定義集の一部分というよりは、これまでの〈ゲーム性〉について検討されたさまざまな議論をもとに、〈ロールプレイング・ゲーム〉における〈ゲーム性〉の射程をおおまかに素描するための、予備的な考察として読んでいただきたい。なにしろ、この〈ゲーム性〉を尊重できるかどうかが、マスターリングの技法に習熟するための条件の一つと考えられている以上、「曖昧だから無視する」というわけにはいかないのである。

 さて、ゲームをめぐる言説の中には、コスティキャンによって定義された〈ゲーム〉の条件とは別に、「このゲームは〈ゲーム性〉が高い」とか、あるいは「このゲームAとあのゲームBは〈ゲーム性〉が違う」といった言い回しが存在する。これは、デジタルゲームや伝統的なテーブルゲームも含めた、あらゆるゲームにおいて普遍的に存在する言説であると思われる。そして確かに、〈ゲーム〉という娯楽は、ほかのメディアでは経験することができないような種類の体験を与えてくれるし、またそれによって知的快楽や感情の昂ぶりを感じさせてもくれる。

 この「ゲーム体験」が、はたして“ほんとうに”他のさまざまな社会的経験と質的に異なる独特の価値を持つ体験であるかどうかは、まだはっきりとは言うことができないだろう。しかし、少なくともこの「〈ゲーム〉独特の体験」が、世間においてある程度既成のものとして受け入れられていることについては、ある程度まで了解を得られるのではないかと思う。私たちは、〈ゲーム性〉とは具体的に何かをはっきりと言い表すことができなくても、それが何がしかの「ゲームの面白さ」を引き出す源泉となっているということは、どうやら認めているようなのである。

 ともあれ、ほかでもない「“ゲームが”面白い」と参加者に思わせ、惹きつけるような〈ゲーム〉に備わってる性質を、私たちはしばしば便宜的に〈ゲーム性〉と呼んでいるのだ。

 ところで、この〈ゲーム性〉という曖昧な概念が、実際のところどのようなものとして定義できるのかについての研究は、どこまで進んでいるのだろうか。残念ながら、この〈ゲーム性〉の定義をめぐる研究は、まだまだ発展途上なのが現状である。この〈ゲーム性〉をめぐって言説分析的研究を行った国内の研究には、たとえば井上(2003=2005,2007)があるが、この井上の研究もまた、〈ゲーム性〉を定義することは慎重に避け、どのように〈ゲーム性〉という言葉が用いられるのかを整理・分類するに留まっている(さらには、〈ゲーム性〉をゲーム批評の主題にすることを陳腐と見なす近年の風潮についても言及している)。

 ここまでが「ゲーム一般」についての〈ゲーム性〉をめぐる状況である。さて、RPGについては一体どのような〈ゲーム性〉に関する議論があるだろうか。

 RPGもまた、「ゲーム」の一ジャンルである以上、〈ゲーム性〉について言及されることはたびたびあった。しかし、この定義集において定義された〈ゲーム〉であるかどうかについては、馬場秀和が「RPGの面白さは〈意志決定〉にあり、〈意志決定〉こそが〈ゲーム性〉を生み出す最大の要因となっている」という趣旨の主張を行うまで、「RPGにおけるゲーム性とはそもそも何なのか」について、一貫した主張を行う人間は少なかった。

 まず、馬場は、「文化的な営みとしての遊び」全体における〈ゲーム性〉を問題にしているわけではなかった。彼はあくまで「“上達の基準を示しうるような”文化的営みとしてのゲーム」という、狭義のゲームをRPGにおいて立論しようと試みたのである。そして、その「狭義のゲーム」を論じるためには、コスティキャンの言う意味での〈ゲーム〉を採用するのがもっとも適切だと馬場秀和は考えた。

 馬場にとってもっとも重要なのは、RPGにおいて「上達の軸」が存在することを、具体的な上達の指針と共に明確に指し示すことだった。そして、その軸を示せないような〈遊戯〉を中心においたRPGや、「RPGにおける教育論の不在」を、徹底的に批判した。

 その批判点は、おそらく以下のように要約することができるだろう。


 馬場は、以上の3点を、あらゆるアプローチ・テーマから何度も繰り返し──ほんとうに何度も何度も──主張してきた。

 しかし、ならば馬場自身は、どのような〈ゲーム性〉をRPGにおいて学び得る〈ゲーム性〉として捉えているのだろうか。ゲーム一般の〈ゲーム性〉がまだ一意的に定められない以上、馬場には馬場なりの〈ゲーム性〉に対する仮説が用意されているはずだと考えられてしかるべきである。馬場の〈ゲーム性〉はほとんど〈意志決定〉と同じものだと解釈することもできるが、コスティキャンによれば、〈意志決定〉は必ずしもRPGにのみあるものではない。では、馬場にとっての、「RPGにしかない〈ゲーム性〉」とは、いったい何を意味するというのだろうか。

 それに関して馬場は、〈目標の多層構造〉こそが、RPG独自の〈ゲーム性〉を支える最大の要因になっていると考えているようである。(馬場2002b)

 RPGのプレーヤーは、セッションにおいて提示される〈目標の多層構造〉を認識し、それらをすべて受け入れた上で、提供された目標すべてを無矛盾に解消しようとしなければならない。この姿勢を獲得することによって、はじめてRPGにおいて〈意志決定〉が成立するだろうという仮説を、馬場は提唱している。この馬場の〈ゲーム性〉に関する仮説は、馬場が〈キャラクタープレイ〉や〈パワープレイ〉など、〈目標の多層構造〉の4つのうちの一部を選んで満足するようなプレイを「へたなプレイ」とか「そもそもプレイと言えない」などと判断するための、理論的根拠にもなっている。

 この馬場の仮説をひとまず受け入れるならば、〈ゲームマスターの裁定基準〉5要素における〈ゲーム性〉とは、「〈目標の多層構造〉がどのように〈意志決定〉を発生させ、〈ゲーム〉を面白くしているのかについて、常に意識を向け続けること」と定義することができる。RPG独特の〈ゲーム性〉とは何かについて、完全に正確な定義を行うことは今は避けるべきかもしれないが、ひとまずこの仮説に基づいてRPGのゲームデザインを論じることは、方法論の一つとして有効な手段であるといえよう。
  →〈アート〉〈ゲームデザイン〉〈マスターリング〉〈目標の多層構造〉〈ゲームマスターの裁定基準〉
(馬場1996-7,2002b)(Duke1974)(井上[2003]2005,2007)



〈ヒューマン・アフェア〉 Human Affairs
 どんなプレイが〈ゲーム〉としてのRPGを持続的に楽しむために適切であるかを理解した上で、問題のあるプレーヤーに対し適切な指導を行う技量のこと。
 RPGにおいて〈ゲーム性〉を守ることの大事さを、誠実な言葉で説得的に伝えることが望まれる。
 マスターリング表現技法5要素のうちの1つ。
  →〈マスターリングの表現技法〉〈ゲーム性〉〈キャラクタープレイ〉〈パワープレイ〉
(馬場1996-7)(馬場2000c)



〈啓蒙活動〉 Educational Campaign
 よりよいRPG文化の未来のために、日々出来る努力を惜しまないこと。
 RPG市場に対する各種の働きかけや、できるかぎり客観的な議論をするための基準の確立、的確な製品レビュー、初心者への偏りのない指導方法の確立、世間のRPGに対する誤った偏見を是正する活動など、さまざまな貢献が考えられる。
 マスターリング表現技法5要素のうちの1つ。
  →〈マスターリングの表現技法〉〈ゲーム批評〉
(馬場1996-7)





E.セッション・共同ゲームデザイン・イマジナリィ・ボード

〈セッション〉 Sessions, A Session
 「RPGシステム・ゲームマスター・シナリオ」の3つが組み合わさって完成する一個の〈ゲーム〉が、〈セッションハンドリング〉を通じて複数人のプレーヤーに提供され、プレイされること。
 またその〈ゲーム〉が提供される場それ自体を指すこともある。
 さらに、この〈セッション〉は、〈セッションハンドリング〉と〈プレイング〉との相互作用によって形成される〈共同ゲームデザイン〉の場としても捉えることができる(〈共同ゲームデザイン〉を参照せよ)。
  →〈ゲーム〉〈セッションハンドリング〉〈プレイング〉〈共同ゲームデザイン〉
(馬場1996-7)



〈共同ゲームデザイン〉 Shared Game Design
 RPGセッションの〈参加者〉同士が、「自由なコミュニケーション」と「ゲームメカニズム」を使用することによって、単なる〈ゲーム的状況〉の一部にすぎなかったものを、次々と遊べる〈ゲーム〉に変えていく作業のこと。
 この〈共同ゲームデザイン〉が〈参加者〉によって試みられるたびに、〈セッション〉の〈ゲーム性〉は絶えず変化の波にさらされることになる(それは、〈参加者〉にとってよい方向にはたらくこともあれば、悪い方向に働くこともある)。
 そして、ゲームデザイン的な見地からこの共同作業を観察した時、この〈ゲーム性〉の流動的変化が起きている「概念的な場所」として見出されるのが〈イマジナリィ・ボード〉である。
  →〈参加者〉〈ゲーム的状況〉〈ゲーム〉〈ゲーム性〉〈イマジナリィ・ボード〉
(高橋2005a)(馬場2005b)



〈評価基準の変更〉 Change Evaluation Criteria
 RPGの〈参加者〉が、参加者間でもともと共有していた社会的・道徳的・心理的な評価基準の一部を変更することを通じて、〈ゲーム〉の構成要素の一部にも変更を促すこと。
 たとえば「キャラクター属性」に関するロールプレイの巧拙をゲームの中心に置いたセッションでは、ある程度プレイグループの中で合意を取る作業がなければならず、この〈評価基準の変更〉作業が、ゲームをより面白くする上で必要となってくる。
 〈ゲーム的状況〉の一部を〈ゲーム〉に変更する技法〈共同ゲームデザイン〉の1つ。
  →〈共同ゲームデザイン〉〈参加者〉〈ゲーム〉
(馬場2005b)



〈境界条件の変更〉 Change Boundary Conditions
 RPGの〈参加者〉が、もともと提示されていた〈制限/情報〉に対し、暗黙のうちに共有されていた前提とは異なる「解釈」を提示して、ゲームマスターの裁定基準に変更を促すこと。
 たとえば、ある特定の組織や個人の助力を得られるかどうかをゲームマスターに確認することで、ある課題に対する難易度が劇的に変わる場合などは、この〈境界条件の変更〉を使用していると言える。
 〈ゲーム的状況〉の一部を〈ゲーム〉に変更する技法〈共同ゲームデザイン〉の1つ。
  →〈共同ゲームデザイン〉〈参加者〉〈ゲーム〉
(馬場2005b)(高橋2005b)



〈ルールの創出〉 Generate New Rules
 RPGの〈参加者〉が、自分達の〈目標〉達成にとって都合のよいルールを、与えられた状況に対する「解釈」を通じて新しく発見(あるいは発明)すること。
 〈ゲーム的状況〉の一部を〈ゲーム〉に変更する技法〈共同ゲームデザイン〉の1つ。
  →〈共同ゲームデザイン〉〈参加者〉〈ゲーム〉
(馬場2005b)



〈イマジナリィ・ボード〉 Imaginary Boards, An Imaginary Board
 〈システムデザイン〉〈マスターリング〉〈プレイング〉の3つの表現がセッションの場において相互作用することを通じて、概念的に編纂・共有されるに至った、想像上の遊戯盤のこと。
 上に述べた〈共同ゲームデザイン〉の成果物と見なすことができるだろう。
 この遊戯盤は、確かにRPG独特のゲームデザインであるように思われるが、実際のところは、通常のボードゲームにおける「ボード」とほとんど変わりなく機能するし、時には具体的なマップや地図等にボードゲーム的な表現を適用することで、アクチュアルなものとして取り扱うことも可能である(しかし、そのすべてをアクチュアルに取り扱うことは不可能である)。
 この「ボードを概念的に把握する」という現象は、〈ゲームデザイン〉という技法そのものが物理的に束縛されない、抽象的思考によって行われる技法であることを踏まえれば、それほど驚くに当たらないことではある。しかし、1970年代にこのような新たなゲームデザイン技法が成立したことにより、ゲームのカスタマイズ性(冗長性)が飛躍的に増したことは確かに画期的なものであり、そして今もなおRPGの様々な魅力を生み出す源泉であり続けている。
 なお、この〈イマジナリィ・ボード〉の名称は、ロールプレイング・ゲームにおけルゲームデザイン的特性を指摘するために高橋(2005a)が考案した言葉であるが、この語の由来それ自体は、世界最初のロールプレイング・ゲーム『ダンジョンズ&ドラゴンズ』ルールブックの、以下の記述に拠る。
「このD&D(R)はロールプレイングゲームである。君は役者(キャラクター)となる。君は、誰か他の人物であって、その人のふりをしているだけなのだと想像してほしい。ただしステージも必要ない。必要なのは、想像力だけなのである。
 このゲームにはゲーム盤はついていない。全く必要ないのである。どんな大きなゲーム盤でも総てのダンジョン、モンスター、君のキャラクターを載せることは不可能だろう!」
(ガイギャックス&アーンソン1985: 2)

  →〈ロールプレイング・ゲーム〉〈共同ゲームデザイン〉
(高橋2005a)





F.その他

〈ゲーム批評〉 Critique of Games
 「ゲーム」という文化のうち、ある特定のテーマやトピックについてとりあげ、論じること。
 (ここで言う「ゲーム」は、コスティキャン的な意味ではなく、一般的な意味での「ゲーム」である。)
 『ロールプレイング・ゲームの批評用語』も、そのような〈ゲーム批評〉の試みの一つ。
 何がテーマで、何がトピックかは、すべてタイトル「ロールプレイング・ゲームの批評用語」に篭められた通りである。
 ここ10年間、ロールプレイング・ゲームに費やされてきた数々の〈ゲーム批評〉の成果を、ある程度まで示すことができたのではないかと思っている。
 ひとまず、皆さんには、このハイパーリンクの中でどうぞ遊んでいただきたい。
 
 そしてもう一つ。
 必要にして最低限の定義は、「最初の一文」にすべて書かれている。
 もし迷った時は、この言葉を思い出してほしい。
 「定義集」は、それほど伊達な話でもないのだ。



〈正名〉 Correct Name
 『論語』巻第七、子路第十三、三節、「必ずや名を正さんか」。
 弟子の子路がいった。
 「衛の殿さまが先生をお迎えして政治をなされることになれば、先生は何をまず先〔さ〕きになさるのですか」。
 先生はいわれた。「まずは名を正すことだね。」
 子路はいった、「これですから、先生の回りくどさは。(この急場にそんなものを)どうしてまた正すのですか。」
 先生は言われた、「がさつだね、由〔ゆう〕は。君子は自分の分からないことではだまっているものだ。名が正しくなければことばも順当でなく、ことばが順当でなければ仕事もできあがらず、仕事ができあがらなければ、儀礼や音楽も盛んにならず、儀礼や音楽が盛んでなければ刑罰もぴったりゆかず、刑罰がぴったりとゆかなければ人民は(不安で)手足のおきどころもなくなる。だから君子は名をつけたら、きっとことばでいえるし、ことばでいったらきっと実行できるようにする。君子は自分のことばについては決していいかげんにしないものだよ。」
(金谷1963: 249-50)







■謝辞

 この論考の参照元となった、すべての〈ゲーム批評〉の担い手たちに。
 私の〈ゲーム〉経験と、そこから培われる言葉を確かなものにしてくれた、アクロバティックな緒先輩方に。
 未来の〈ゲーム〉をより面白くしようと、今なお目を輝かせているすべてのRPGゲーマー達に。
 RPGそれ自体には興味がなくとも、さまざまな見地から熱心に私の話に耳を傾け、注目してくれた素敵な人々に。
 度重なる校正作業に丹念に付き合ってくださった、幾人もの優しい方々に。
 RPGについて語り、問い続けることの価値を信じさせてくださった、俵ねずみさん、そして「八月の横糸」の面々に。
 この文章を広く公開する場を与えてくださった、『Scooops RPG』管理人のベンさんに。 
 そしてなにより、文内の各種ギミックその他、さまざまな校正作業において多大なお力添えをいただきました編集担当の馬場秀和さんに(貴方がいなければ、この文章は生まれなかったでしょう。それは、あらゆる意味において、です)。
 
 厚く、御礼申し上げます。


 (高橋志臣 2007)



■参考文献(アルファベット順)

馬場秀和,1996-7『馬場秀和のマスターリング講座』
http://www004.upp.so-net.ne.jp/babahide/master.html
────,1998「パワープレイ─あるいはシークレットドアを探して」『馬場秀和のRPGコラム』1998年11月号
http://www.scoopsrpg.com/contents/baba/baba_19981109.html
────,1999「馬場コラム連載1周年記念 特別編」『馬場秀和のRPGコラム』1999年7月号
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(この論文はインターネット上でも原文・日本語訳共に読むことができる。
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著者のページ "GOD AND GOLEM, Inc."



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