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Run With It

見えざるディティール 第1回 「描写をしない」
(Unseen Details #1 ; How Not to Describe)

序章

マイケル・T・リヒター(Michael T. Richter)
August 22, 2000

翻訳: Thalion <thalion*at*os.rim.or.jp>


読者の多くは、昔の古い (A)D&D モジュールの事を覚えているだろう。城内のあらゆる部屋に、恐ろしいまでのディティールが書込まれていて、その隣には「プレイヤー達にこれを読み聞かせろ」で始まる、完璧なまでのフレーバーテキストが詰まった枠がついているアレだ。その文章は大抵、ものすごいことになっていた。当時は、そうしたプレイが一般的だった。そして実は、今もそれは変わっていない。RPG をプレイが酷いものになってしまうのは、殺人 GM とか、そういう RPG 界の伝説(勿論、その中には、伝説的な失敗の話の数々も含まれている)となるような人々ばかりのせいではない。単純に、描写が駄目だっただけなのだ。

このコラム最初のシリーズは、RPG における描写について触れていく。このテーマについて語るならば、お手軽サイズのコラムで済ませるのではなく、より多くの言葉を費やす価値がある。このシリーズでは、毎回、描写というものの様々な面について、RPG と絡めて書いていくつもりだ。だが、文学的な描写手法については、あまり触れずにざっと流してしまうつもりだ。1

私が上で仄めかしたような、何やら強い言葉を読んで、既に怖じ気づいている読者もいるだろう。つまり、描写が貧弱だということは、それ以外の悪い要素よりも、もっと多くの RPG セッションをダメにしてしまう、という事だ。もし君たちが RPG の中での GM の役割というものを正しい角度から見る事ができているなら、ある一つの事に気付いている筈だ。つまり、GM はゲームに参加している全てのプレイヤーの「目」であるということだ。プレイヤーが得る情報は、全て GM から与えられるのだ。そして、GM が情報を与える際の、最も重要な手段は、キャラクタの周囲の状況を描写することなのである。情報が正しく与えられないと、プレイヤー達は強い欲求不満に陥る。逆に、情報を与え過ぎても、同じような悪影響を与えてしまう。この問題は(よく見落とされがちな問題ではあるが)特にペース配分においては顕著であり、この場合、結果的にプレイヤーを退屈させてしまう。

描写をしない

RPG をやっていて、描写がうまく行かなくなる状況には、いくつかの種類がある。 ここでは上で仄めかしたような例を一つ挙げてみよう。この例では、複数の間違いを同時に犯している。大抵は初心者 GM がやるようなものだ:

ディティールが細かすぎる(その上、不適切)

君たちが入ったのは、以前は豪華であった大広間で、広さは 500'x250'だ。確かに昔は荘厳だったのだろうが、その面影は殆ど失われていて、想像出来ない。数世紀におよぶ放置が、その栄光の衣を奪い去って久しい。天井には壮麗な壁画があり、エレメンタルの神々による世界創造が描かれていたのだが、今では煤で汚れ、腐食した石膏が過去の栄光の片鱗をかすかに思わせるのみだ。壁は旧時代の王たちが成し遂げた偉業を描いた豪華なタペストリーで覆われていたのだが、今では殆ど剥がれ落ちたり、色褪せた布が僅かに張り付いているばかりだ。部屋には強い悪臭と煙が漂っている。時間と、そして死体がその源だ。左奥の壁から 50' の所には崩れ落ちた一組の...

[ゴージャスな散文的表現を 山ほど ]

...は、さだめしレイヨウの突進すら止める事が出来るだろう。古き時代の栄光がこれほどまでに滅びてしまったのを見た君の心は悲しみに満ち、失われた日々に経てきたであろう痛みや苦しみへの共感が、心臓の鼓動も遅れがちにさせていった。

その汚れ果てた広間の中央に、一匹のドラゴンが座っている。その双眸は悪意と知性に満ち、赤く輝きながら君たちを見下ろしている。

さて、ここまででどこがいけなかったのだろうか? というか、どこがいけなくなかったかという質問の方が簡単だろう。明確な間違いを列挙してみよう:

  1. 信用出来ない。状況はこうだ: 屈強な冒険者の一団が、ええと、太古の宮殿の遺跡を調べまわっている。彼らは巨大で、邪悪、そして危険な爬虫類のいる部屋に入った所だ。彼らはまず、何気にその部屋の背景に何があるかを細かく調べた。 彼らを今まさに丸焦げにしようとしているトカゲ君は置いておいてだ。至極ごもっとも。
  2. 巨大で、火を吹いていて、鱗な奴のことはこの際置いておくとしよう。だが、キャラクタたちは、どうやってこの部屋の寸法を、そこまで正確に知ることが出来たのだろう? この部屋が幻影であるかも知れない、という点についても、とりあえず置いておこう。だが、プレイヤーたちはこの部屋の寸法を計ってもいないのだ。かなり嘘臭いだろう。
  3. キャラクタが何かの外見を観たとき、それをどう感じるかを教えてあげる必要はない。物語の作者は、登場人物の全てをコントロールすることが出来る。だが、GM はキャラクタ全員を支配出来る訳じゃない。ゲームマスターをやるということは、物語を書く事とは違うのだ。GM が行うのは、演技指導ですらない。それは、彼我の協力の下に行われる、大抵はアドリブの、冒険なのだ。共に生きよ。支配しようとするな。
  4. テンポが無茶苦茶になっている。そう。件の GM は、一見無害な描写と、大きな危険とを、並置的手法を使うことで、かっこ良く見せようとしている。残念ながら、彼がその作業を終えた時には、プレイヤーの半数は退屈し、残る半分は不信のあまりぐったりしている。失敗に終わっているのだ。

この状況を改善するのは簡単だ:

  1. 描写に大まかな優先順位をつけ、キャラクタがその順に物事に気付くようにする。この順序に従って簡潔にプレイする。上の例だと、崩れ行く過去の栄光についての印象を、最大でも二つのセンテンスで素早く伝える。キャラクタの注意を引きそうな物件(つまり、件の脚付き巨大ガスオーブンの事だ)については、その後で説明する。それ以外の情報については、後程必要に応じて伝えていく。
  2. 正確な測定方法がある場合を除き、キャラクタには正確な測定結果を与えてはならない。そう、確かに部屋のサイズがきっちり合わない不正確なマップにはイライラするけれども、冒険者兼スケッチアーティストの人生とはそうしたものだ。これもキャラクタに入り込むための手段だと考えよう。
  3. キャラクタがどう考えているかを、そのプレイヤーに伝えるようなことは絶対にしてはいけない(ゲーム内のマインドコントロールが阻害されるじゃないかね)。君の仕事は、彼らにそういう反応を起こさせることであって、そうしろと説明することじゃない。
  4. アクションシーンに繋がるような描写は、短く、歯切れ良くする。作家がやるような小手先の技は使わない。仮に君がそういう作家だったとしても、だ。

悪い描写の例をもう一つ挙げてみよう。今度のは、うんざりしまった GM だ:

ディティール不足

君たちは壊れた物が一杯のホールに入った。ドラゴンが一匹いる。

何がいけないのか? 情報が不十分なのだ。ホールの広さは? 壊れたものってどんなもの? どんなドラゴン?(話に関係あるのか?) ... 描写を簡潔にするという事については、色々と議論の余地があるんだけれども、少なくともこれは行き過ぎだ。プレイヤーは、自分のキャラクタが存在する世界を、心に描けなければならない。上の例だと、このプロセスの手助けとなるような、手がかりが何もない。こうなってしまうと、ゲームは退屈で長い Q&A の繰り返しに堕する事になる。そしてセッションは失速し、ペース配分は粉々になり、プレイヤーの不信を招き、最終的には参加者全員をげんなりさせてしまう。

今後の「見えざるディティール」

今回は、RPG における描写、という問題について、いくつか挙げてみた。特にネガティブな問題について挙げたつもりだ。次回は、こうした問題について、異なった角度から論じる。その後、稿を改めてから、RPG ゲームでの描写を扱うための上手い方法について、紹介しよう。


1 こうした文学的な描写テクニックについて知りたい方は、Writer's Digestのような団体から出ている書籍を読むべきだろう。

マイケル・T・リヒター(Michael T. Richter)
mtr*at*rpg.net