著者:冒険企画局・編
カテゴリ:RPGリプレイ(上巻)/RPGルールブック(下巻)
発行社:宙(おおぞら)出版
形態:ブック・タイプ(新書サイズ)
ページ数:上巻255ページ/下巻191ページ
値段:上下巻とも750円
ISBN:上巻4-391-11348-1/下巻4-391-11349-X
レビュー著者:佐藤宇育
プレイの有無:有
●はじめに
ウィッチクエストは、プレイヤー全員が13歳の魔女か1歳の 魔女猫になってペアを組み、ホウキで空を飛び、小さな魔法を使ったり しながら困っている人を助けたり、ちょっとした冒険をするというRPGである。コンセプトは非常に明快でルールも簡単。初心者や女性にも安心して勧めることのできる、とても「やさしい」RPGであるといえよう。
このRPGは1991年に出版された。その後残念ながら絶版になってしまったが、その独特のコンセプトと雰囲気で今も高い人気を誇っている。
また、シェアテキスト(注)化された恐らく最初のTRP Gシステムであり、現在はさうす氏 のWebページ上のコンテンツ(http://www.incl.or.jp/south/WQ/WQ.html )で閲覧することができる。
全くの余談ながら、私は数年前に幸運にもこのRPGを友人から譲り受けることができた。以来、これは私の宝物の一つである。
レビューについての補足をしておく。本来、「リプレイ/シナリオ本」で ある上巻と「RPGルールブック」である下巻とでは別々にレビュ ーを書くべきなのだろうが、今回はまとめて1本とした。また、その性質上ルール・システムに関するレビューのほとんどは下巻の記述をもとにしている ことを了解していただきたい。
●「やさしい」ルールブック
ウィッチクエストは前述の通り、上下巻で構成されている。上巻にはリプレイが2本とそのシナリオが収録されている。下巻はルールブックである。また下巻 にはゲーム中はもちろん占いにも使える「ウィッチ・タロー」が付属さ れていて、切り取って使えるようになっている。
ルールの説明に入る前に、特筆しておきたいことがある。このRPG・・・いや、「この本」が持つ「やさしさ」について、である。
表紙および挿し絵には九月姫氏のイラストが使われており、作品全体 の雰囲気と非常によくマッチしていて好感が持てる。かといって挿し絵の数も多すぎず少なすぎずでバランスがよく、イラストに頼りすぎない姿勢が伺える。
特に、構成は数あるRPGの中でもトップクラスの出来である。新 書サイズである点を活かしてか紙面の上部余白に注釈欄があり、ルールのフ ォローやちょっとしたヒント、気さくな言葉が書かれている。1ページあたりの情報量は少ないが、ゆとりのある画面構成が光っている。
ルールの記述も、難しい言葉や専門用語を避け(やむを得ない場合でも、必ず注釈でフォローされている)、そのうえで必要な情報はきちんと与えてくれる。 読んでいてストレスが溜まらない、読者のために心を砕いたことが伝わってくる文章である。
繰り返しになるが、私はウィッチクエストというRPGを読んだり遊んだりするとき、「やさしさ」を強く感じる。それはきっと、こういうところから現れる のだろう。
同時に、それはあたりまえのことだとも思うのだが。
●「冴えたやりかた」
上記のように、とても丁寧に作られているウィッチクエストだが、実はきわめて切れ味の鋭いルールを誇っている。いくつかの例を挙げよう。とはいえルール は簡潔にして必要最小限なので、これから紹介するものでほとんどすべてである。
「チャレンジ」と呼ばれる通常の成功判定。これは、2D6を能力も しくは技能の値回数だけ振って、ぞろ目が出たら成功、というものだ。ちょっと計算してみるとわかるが、かなり成功率が低い。しかし、この成功にしにくいルールによって、13歳と1歳の駆け出しコンビの雰囲気がとてもよく出 ているのである。
たとえば空を飛ぶとき。魔女がホウキで空を飛ぼうとするときも、「ほうきで空を飛ぶちから」を使ったチャレンジが必要になる。「ほうきで空を飛ぶちか ら」には「早く飛ぶ」「高く飛ぶ」「曲芸飛行」といった技能があり、魔女はこれらを使って、成功するまで空を飛ぼうと試み続けなければならない。
「最初は『早く飛ぶ』で判定・・・だめ、失敗。次は『高く飛ぶ』 で挑戦するわ。・・・やっぱり失敗〜」
「もう、なにやってるんだよ。早く出発しないと日が暮れちゃうにゃあ」
「わかってるわよ。仕方ないわ、『曲芸飛行』で判定っ。・・・やった、成功!」
「ちょ、ちょっと〜。なんでわざわざぐるぐる宙返りしながら飛ぶんだよう」
「しょうがないでしょ、ほうきが言うこと聞いてくれないんだから!」
「にゃあぁ〜」
どうだろう、ほほえましい光景ではないか?
魔法について。ウィッチクエストでは、魔女も魔女猫も、それぞれ独 自の魔法を使うことができる。しかし、同じ魔法でもそれらは大きく性格の異なるものになっている。魔女のそれは使用回数制限なしで、あらゆることを魔法で起こすことができるが、成功判定が必要である。魔女猫のそれは決められたリストの中から使う魔法を選ばなければならず、かつマジックポイントを消費する。 しかし、魔法は必ず成功するのだ。両者は全く正反対と言っても過言ではないことがおわかりいただけるだろう。そして、この無限の可能性を持つが不安定 な魔女魔法と、限定されているが確実な猫魔法の組み合わせによっ て、ごくごく自然に両者が協力し、補いあうというプレイスタイルが生まれるのである。
魔女と魔女猫の関係を支援するルールは他にもある。猫はシナリオ中に与えられる猫ポイントを使い、同意の上で魔女の手伝いをすることができる。 ここにも深いシステム哲学が隠されている。
猫の助けによって消費された猫ポイントは猫バンクに移されるのだ が、シナリオ終了後に与えられる経験点は、使われなかった猫ポイントが魔 女のぶん、手助けによって猫バンクに移ったポイントが猫のぶんと なるのである。ミッションクリアと経験点の間のジレンマ、キャラクター同士の駆け引き、そして意志決定。RPGがRPGたる魅力を、見事に引き出したルールと言えるだろう。
最後は世界観。ウィッチクエストの世界はランドアイルスと呼 ばれる、おとぎの国のような世界だ。そこは胸おどる驚きで溢れている。街ごとに微妙に流れる時間が違い、どんな不思議も実在しうる。ある街ではドラゴンの夫婦が痴話喧嘩していて、住民を悩ませている。ある街ではパン屋さんの右腕が「疲れました」と家出する。そして、ある街では飛行機による一大レースが幕を 開けているという具合だ。GMの創造力の数だけ街が存在し、プレイヤーの創造力の数だけ魔法が存在する。おとぎの国ではなんでもありなのだ。なん といっても、魔女が実在するのだから!
●「絶版」という現実と、「シェアテキスト」という道
しかし、ウィッチクエストは絶版になってしまった。ウィッチクエ スト2というサプリメントが発売されたが、サポートはそれだけだった。
しかし、その後このRPGはシェアテキストとして復活することにな る。それからしばらくの時間がたったが、同じような方法で「復活」したRPGについて、私は寡黙にも知らない。これで、少なくともネットワークに接続できる環境があれば、この名作に触れることができるわけだ。
それだけではない。世の中には惜しまれながら絶版となってしまい、全く手に入らなくなってしまっている名作タイトルのなんと多いことか。それらをウィッ チクエストと同じようにシェアテキスト化することができれば、きっとずっと多くの人が名作に触れ、名作で遊び、そして、よりよいRPGを作っていけることだろう。
それは机上の空論、夢想でしかないかもしれない。しかし、夢を持つことはTRPGプレイヤーに求められる、最大の資質のひとつであろう。そして、私は夢 見ずにはいられないのだ。いつの時代の、どんなRPGも自由に手に取ることができる、すばらしき世界を。
●まとめ
ウィッチクエストはそのコンセプトや扱う題材の関係上、「女性向け」 「初心者向け」とよく言われる。おそらくそれは正解だろう。
しかし、ウィッチクエストには、それだけで終わらない魅力がある。それは多くの人に安心して勧められるやさしさであり、ルールと世界観と “ロールプレイ”の見事な融合であり、シェアテキストとしての新たな 道である。あるいはそれは、現在のTRPG界が抱える数々の難題に対す る、過去からのメッセージなのかもしれない。
これほどに絶版が悔やまれ、これほどに復活を祝いたいRPGを、私は他に知らない。
内容:5(すばらしい!)
体裁:5(クール!)
値段評価:2500/1500(上下巻の合計)
注:シェアウェア等と同様に、読んで気に入った人がユーザ ー登録を行い、著作者にお金を支払うことを求めている文書。